獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
「ご無礼をお許しください! しかしながら、中止のご判断だけはなにとぞ考え直しをお願いいたします! 私も当初、ヴィヴィアン様の代役に耳を疑ったひとりでございます。ですが、台本の一時間での速読暗記を宣言し、ある種異様な集中力で取り掛かるお姿を目の当たりにし、考えを改めざるを得ませんでした。ヴィヴィアン様は間違いなく、役者として天賦の才をお持ちでございます!」
「……ヴィヴィアンに、役者の才だと?」
 さらに一時間で一公演の通し台本を丸暗記だなどと、そんなことが果たして実現できるのだろうか。
 平身低頭で訴える支配人の言葉は俄かには信じ難く、嘘ではないにしろ多分な誇張を含んでいるとしか思えなかった。
「これが紛れもない事実でございます!」
 胡乱げに見下ろす俺を、支配人はしっかりと見据えて答える。
 ……馬鹿馬鹿しい! 頭では、公演中止の判断がこの場の最善だと分かっていた。
 しかし、支配人の鬼気迫る目を前にして、無碍に一蹴することができなかった。
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