偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
これをきっかけに、祖父の死に際の戯れ言だと思っていた話を信じ始め、金森製菓について調べるようになった。
一般公開されている歴史館へも足を運んだ。
『カナモリ菓子店』を写したセピア色の写真や、製菓のための道具が並べられた一直線の順路が続く。
一番最後に現れた目線と同じ高さのガラスのショーケースは【はなごころ 創業当時の製法】と題され、中にはくたびれた五十年前の手記が置かれていた。
四つ折りにされた黄ばんだ紙に鉛筆で書かれ、表紙には、上手ではない字で【雲のケーキの作り方】という題名が記されている。
俺はショーケースの前に立ち尽くし、しばらくそれを食い入るように見ていた。
祖母の筆跡で間違いなかった。
『はなごころ』を考案したのは祖母だという動かぬ証拠を目にした俺は、言い様のない憎悪に侵されていった。