偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

『お義父さん、いきなりそんなことを言われても八雲さんが困ってしまうでしょう』

すかさず同席していた社長がフォローに入ってくれたが、俺はもう、目の前の憎たらしい爺さんしか目に入らない。

『八雲さん。こちらは創業者の金森善次と申しまして、私の妻の父です。金森製菓では社長の私より遥かに地位が高いんですよ……。なんてったって、あの〝はなごころ〟を考案し、会社をここまで大きくしてきた張本人ですから』

違う。はなごころを作ったのは、俺の祖母だ。

『まあ若造にはわかるまい。俺がどれほど苦労し、今は誰もが知る看板商品〝はなごころ〟を完成させたか。どれどれ、苦労話を聞かせてやろうか』

『お義父さん、今は結構ですよ』

『そうか? 残念だ』

なんなんだコイツ。嘘ばっかり言ってんじゃねぇぞ。

蹴り飛ばしたい衝動を抑え、俺は『よろしくお願いします』とつぶやきながらその男に頭を下げた。
< 107 / 211 >

この作品をシェア

pagetop