偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
しかし彼はそんな私のささやかな望みを打ち砕くように、フッと笑みを落とす。
「差し出すさ。あのじいさんがお前を見捨てられるものか」
「そうでしょうか……。私がいなくなったところで金森製菓にはなんの影響もありませんし、私と引き換えに『はなごころ』を手離すとは思えません……」
「自覚がないんだな。自分がどれだけ無償の愛を注がれ、周囲に恵まれているのか」
え?
「あの、今なんて?」
「虫酸が走るって言ったんだよ」
睨み付ける冬哉さんの視線に凍り付いた。
彼は「コーヒー持ってくる」と言い残し、席を立つ。
私はずっと嫌われていたのだろうか。悲しい事実が次々に判明するのに、涙は出てこない。麻痺している。
お腹の奥がキリッと痛んだ気がして、フォークを置いてうなだれた。
食事には半分も手をつけることは出来ないまま、さらに食欲を失った。
「……凪紗。聞こえるか。俺だ」
──え。
その声は背後から聞こえてきた。
たしか、後ろの丸テーブルには、黒いスーツを着た男性が背を向けて座っていたはず。
この声。まさか。