偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
『……金森製菓さんたち、言ってたんですけど。〝凪紗を返せ〟って』
俺は彼女に聞こえないよう小さく舌打ちをした。
若月には一週間の休暇の理由をなにも話していないし、話す気もない。
「そうか。ほかには?」
『ほかにはなにも。私に言っても無駄だとわかると切られちゃいました。あの、凪紗って……たまに事務所に来る社長の彼女さんのことですよね? 八雲社長、もしかして、お付き合いうまくいっていないんですか? ご家族に反対されているとか?』
まったく業務外の質問であり、しかもわざわざビデオ通話を選んでかけてきていることに強かさを感じ、俺は肯定も否定もせずにしばらく黙った。
社員相手に感情的なことは言えない。しかし、他人からのこういう質問は鬱陶しくてたまらない。
「まあ、いろいろあるんだよ」
『そうなんですね……』
もう話は終わったかと思ったが、若月はデスクに肘をつき、なにか飲んでいるのかグラスで氷を揺らす音がする。
まだなにか言いたげにちらちらと俺に視線を向けてくる。