偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
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見覚えのある景色に変わり、疲れて黙っていた私は気まぐれに、「もうすぐ着くね」と右にいるアキトくんに声をかけた。
彼は横目で私をちらりと見てから、「そうだな」と返事をする。
微かな解放感で、胸の風通しはよくなっている。しかしそれは大きな穴が空きすぎて、心が空っぽになってしまったのだろう。
毎日冬哉さんのことを考えていたのに、これからはもう考えたって会えないのだ。
それでも私は変わらない。なにがあっても、愛してる。
それでいいと思えた。一生心に想う人がいて、その人とは結ばれなくても。私はきっと冬哉さんが幸せなら、幸せなんだ。
「おじい様はどこにいるかな?」
〝おじい様〟というワードを出すと、なぜかアキトくんは不機嫌そうに顔を歪ませる。
「……凪紗んちにいるよ。社長と美佐子おばちゃんと一緒に。商標権をどうするか話し合ってる」