偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
「おい。次期社長として言っておくが、金森製菓はお前に商標権を渡す気はない。そんなに欲しけりゃ手記はくれてやるが、それを使って商売ができると思ったら大間違いだ」
「……いらない」
「ああ?」
──冬哉さん?
冬哉さんはジャケットの内側から、私が渡したはずの四つ折りの手記を取り出しながら、こちらへやって来た。
憔悴した様子の彼は、アキトくんの横を通り過ぎて私たちの揃っている土間へと入る。
目の前の光景に、私の瞳孔は開ききり、目が離せなかった。
冬哉さんは持っていた手記を、父に差し出し、崩れ落ちたのだ。
「……や、八雲、くん?」
「……もう、なにもいらない……」
父が渡されるままに手記を受け取ると、冬哉さんは肩を落とし、まるで涙を隠すように手のひらを顔にあてている。
「……凪紗が欲しい……」
──え……?
今、なんて言ったの?