偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
母がひとりで玄関へ向かい、つっかけで土間に下り、重厚な引戸の扉を開ける音がする。そしてすぐに「お世話になっております」という冬哉さんの母へ向けた声が玄関から聞こえると、おじい様はピクリと眉を寄せた。
父はか細い声で「リノベーションのお礼に、八雲さんを呼んだんです」と白状した。
私は臨戦態勢に入るため父と同じ向かいのソファに移動する。
「八雲だと……?」
おじい様の顔がみるみる怒りに変わっていくと同時に、母に案内された冬哉さんがこの客間へ姿を現した。
「お待たせしました、金森社長。本日はわざわざーー」
青いネクタイをしたスーツ姿の冬哉さんは奥のソファの父に挨拶をしようとしたところで、手前のソファに背を向けて座っているおじい様に気づく。
「フン。礼儀がなっとらんな。創業者への挨拶が先だろうに」
おじい様は背を向けたままで言い放った。