偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

「アハハッ、凪紗さん、不安って顔に書いてあるね。本当に素直だなぁ。うちの姪っ子見てるみたいでかわいいよ」

本村さんは沈んだ私の頭をなで回し、クックッと笑った。
本村さんの姪っ子って、たしか五歳……。

「やっぱり私、ご迷惑なのでしょうか……」

「ううん。ここのスタッフ全員、凪紗さんを歓迎してるよ。なんでかわかる?」

「え? な、なんででしょう」

本村さんは私の提げている風呂敷を指差す。

「いつも差し入れに金森製菓の『はなごころ』持ってきてくれるから。めちゃくちゃおいしいよね、それ」

ニカッと歯を見せた彼に、私も心に明かりが灯ったように安心し、笑顔が戻る。

「たくさん持ってきます! 百個でも、二百個でも!」

勢い余ってそんなことを口走ると、本村さんはさらにアハハと声を上げ、私も同じくフフフと笑った。

「凪紗」

すると空間を切るような透き通った声が、天井まで吹き抜けのエントランスにピンと響いた。
本村さんは小声で「ほら、来たよ」とつぶやき、私の笑い声も緊張でピタリと止まる。

カツン、と靴の音を立てながら、王子様のような彼がむき出しの階段を降りてくる。私は何度みても慣れず、見つめながら「冬哉さん……」とつぶやいた。
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