偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
冬哉さんと出会ったのは、ちょうど一年前。
大学を卒業したばかりで新人だった私が、金森製菓本社で父について回り、勉強させてもらっていた頃だった──。
役員秘書課で秘書の真似事をさせてもらっていた私はこの日、父を訪ねて来る〝とあるお客様〟を社長室へ案内する、という簡単な仕事を任されていた。
本社オフィスには営業部、企画部、商品開発部などさまざまな部署が入っており、お客様の来訪で受付カウンターは大忙し。私はその横に立ち、目当てのお客様をチラチラと探した。
たしか建築士の〝八雲さん〟。
父によれば、『男前だから見ればすぐにわかる』とのこと。
あまりに私がしっかりしていないことに不安を感じ始めているらしい父は、最近やたらとひとり行動をさせようとする。
それにしても初対面の人のお出迎えを言い付けるなんて、いくらなんでも意地悪だ。
むくれていると、ちょうど男性がひとりカウンターに近づいてくる。周囲がザワッと沸いた気がして、私も顔を上げた。
その人を見た途端、自分の口が勝手に開くのがわかった。
シュッとした体格に似合うストライプのスーツを着こなし、薄型の鞄を持って歩いて来るその魅力的な男性の姿に、一瞬で目を奪われたのだ。