政略結婚のはずが、極上旦那様に溺愛されています
 玄関から物音が聞こえ、秋瀬くんの帰宅を知らせてきたけれど身体が動かない。

 おかえりと言って無視されたらどうしよう。大事な話があると離婚届を出されたらどうしよう。

 悪いことばかり頭の中をぐるぐると回って、秋瀬くんに話しかけたいのに、話しかけたくない。

「真白?」

 電気を付けるのも忘れてうずくまっていたからか、真っ暗な部屋に疑問を覚えたらしい秋瀬くんの声がした。

 足音が近づいてくる。怖くて、振り返れない。

「しろちゃん」

 頭上から聞こえたのは、最近聞かなくなった秋瀬くんだけの特別な呼び方。

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