今宵、狼神様と契約夫婦になりまして(WEB版)

 陽茉莉はびくっとして足を止めると、周囲を見渡した。
 声の発信源はすぐに見つかった。雑居ビルの合間から、ぽっかりと穴の空いた闇のような目でこちらを見つめている。

「う、うそ……」

 ここ最近、この声を聞くことはおろか姿を見かけることすらなかったので、すぐには信じがたかった。けれど、そこにいたのは紛れもなく〝人ならざる者〟だった。

 陽茉莉は咄嗟に、鞄を漁る。

「ない。なんで!」

 あるはずの手応えがどこにもなく、ハッとする。

(お守り、会社だ……)

 今日、鞄の中身を整理したときにデスクの上に置いた。そのまましまい忘れたのかもしれない。
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