今宵、狼神様と契約夫婦になりまして(WEB版)

「係長はいつも早いですね?」

 朝の出社時間をずらしてほしいと言ったのは陽茉莉だが、ここまで早く出ることを想定していたわけではなかった。

「ああ。ちょっとやりたいことがある。始業時間前はどこからも電話がかかってこないから、仕事が捗るんだ。早朝出社、やり始めるとなかなかいいよ」

 相澤はそう言うと、玄関へと向かう。
 ちょうど居合わせたことだしと、陽茉莉は玄関まで見送りに行った。靴紐を結び終えた相澤は、そこに立つ陽茉莉の顔を見て怪訝な顔をする。

「どうした?」
「まだ時間があるから、お見送りをしようかと思いまして」

陽茉莉が見送りにくるとは夢にも思っていなかったようで、相澤の目が僅かに見開く。そして、少し照れたようなはにかんだ笑顔を浮かべた。

「ありがとう」
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