運命の一夜を越えて
「俺、母親を亡くしてるんです。10歳の時に。母は看護師をしていて、父と一緒に個人病院を経営して忙しくしている人でした。でも、俺がまだ8歳のころ、がんをわずらったんです。」
渉の言葉に私は言葉を失った。

「そうなの・・・」
母もその言葉に私の方を見る。

渉のお母さんが病気で亡くなったことは知っていた私。
でもそれががんだとは知らなかった。

「がんが見つかった時にはすでに全身に転移していたんです。父は医者として町の人たちをたくさん支えて救って来たのに、一番そばにいた母の病気に気づけなかったことを今でも後悔しています。」
「そう・・・それはつらいわね」
”がん”という言葉に衝撃を受けすぎて私はうまく返事ができない。そんな私に変わって母が返事をしてくれた。

「きっと父は今でも母のことを後悔して自分のことを責めているんだと思います。結構な年なんですけど、今でもどんなに遠い場所にいる患者の元でも年中無休で飛んでいきますから」
「そう」
「母にしてあげられなかったことをほかの誰かにすることで自分を保ってるんじゃないかなって思うことがあります。」
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