運命の一夜を越えて
「一つは限界まで妊娠をこのまま継続するということ。二つは今帝王切開で出産をしてすぐに治療を始めるということ、三つは入院をして可能な限りの治療をしながら時期を見て帝王切開をすることです。」
いつかは家で過ごすことに限界が来ると覚悟をしていた。
呼吸困難になった彩が病院のベッドに横になる姿を見て、俺はその限界が近いことを実感した。

それでも、彩を離したくない。
家で一緒にいたいとこれまでその限界に気づかないようにしてきた。
でも、医師から限界が近いことを告げられてしまったことに俺は動揺を彩に悟られないようにするのが必死だった。

今まで俺たちは揺るがない気持ちで新しい命を守ってきた。
彩はきっと俺に遠慮をして、断言したいことも言葉を出せず俺の横で飲み込んできた。

子供を産む選択をするときも、医師からの言葉に彩は子供の命を優先することを言いたくても、俺に気遣って断言できなかった。
俺は彩を愛してる。どうしようもなく愛している。

愛している妻の言いたいことなど、言葉にしなくてもわかってしまう。
だから俺は俺に遠慮をして断言できずにいる彩の代わりに医師に新しい命を守る選択を告げた。
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