契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
「も、もう、何回同じことするんですか!」
 
 こっちを向いた大吾さんと目が合い、弾かれたように顔を逸らす。突然胸の鼓動が速くなり、このドキドキが恋だと知ってしまったからかなんだか目を合わせにくい。

「こんなことくらいでいちいち、そう目くじら立てるな。でもまあ怒った顔の八重もかわいいから、怒らせるのも悪くない」
 
 ダイニングテーブルにコーヒーカップを置いた大吾さんが、そう言って私の髪をクシャッと撫でた。

「時間がなくなる。さっさと食べるぞ」
 
 出かけるまでの時間が少なくなったのは大吾さんのせいなのに、勝手なことを言って朝食を食べ始めた。
 
 怒った顔もかわいいとか、そんなこと言われたら調子が狂うじゃない……。
 
 聞き慣れないことを言われ、文句のひとつも言えなくなってしまう。そんな言葉ひとつで舞い上がり、にやけそうになる自分を戒める。
 
 大吾さんが一緒だとはいえ、今日は月菱酒造へ初出勤する日なのだ。会社でどんな風に紹介されるかわからないけれど、私が新入社員なのは間違いない。


< 122 / 172 >

この作品をシェア

pagetop