契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 もう一度会釈をして、くるっと踵を返した斎藤さんのあとについていく。一度秘書課を出た斎藤さんは、廊下をはさんで真向かいにある部屋のドアを開けた。

「ここが私の執務室です。隣が社長室、は一度来ているから知っていますね。部屋の中にもドアがあって、社長室と私の執務室はすぐに行き来できます。社長に呼ばれたらすぐに行くようにしてください。そうしないと……」
 
 斎藤さんの声のトーンが変わり、体中が緊張感に包まれる。

 そうしないと、一体なにが起こるというのだろう。
 
 息をのんで、その続きの言葉を待つ。でも彼の口から放たれたのは……。

「社長が機嫌を損ねます」
 
 まるで見当違いの言葉が出てきて呆気にとられる。機嫌が悪くなるのはそれはそれで困るけれど、そんなもったいぶって言うことじゃないと思うのは私だけじゃないだろう。

「……はぁ、わかりました」
 
 納得いかないまま返事をする私に、斎藤さんが苦笑する。でも全然嫌味なところはなく、初めて会ったときは嫌な人だと感じたけれど、思ったより砕けていて親しみやすい。

「今日からお世話になります。よろしくお願いいたします」
 
 斎藤さんにはまだちゃんと挨拶をしていなかったことに気づき、ぺこりとお辞儀をした。



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