契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
「ありがとう、生き返った」
 
 その表情は、幾分落ち着きを取り戻しているように見える。

「すぐに出かけるなら、斎藤さんを呼びましょうか?」
 
 自分用に与えられたデスクに向かい、スマホを手に取る。さっき教えてもらったばかりの番号に電話をしようとして、その手を遮られた。

「いい。少しふたりでいたい」
 
 腕を引かれ身体がバランスを崩して傾くと、そのまま彼に抱きしめられた。いつもみたいに強引ではなく、あくまでも優しくソフトに。私の首元に顔を埋め甘えるような素振りに、何かあったのかと心配になってしまう。

「どうかしましたか?」
 
 本当なら『ここは会社ですよ』と苦言を呈するところだけれど、何故か今はそんな言葉より、ただ抱かれているのがいいと私の心が囁いている。

「いや、少し疲れただけだ。心配するようなことはなにもない」
「そうですか、わかりました」
 
 会議で何かあったのかもしれない。でもそう言われたら、これ以上詮索することはしたくない。

 大吾さんがいいと思うまで、その気持ちが和らぐまでこのままでいようと、彼の背中にそっと腕を回し入れる。



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