契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
「大吾さん、いらっしゃい。少し久しぶりね?」
 
 年のころは六十代後半といったところだろうか。小柄で品のある可愛らしい女性が、大吾さんにそう話しかける。

「そうですね、お久しぶりです。少し仕事が立て込んでいまして、なかなか寄ることができなくてすみません」
「そんなことは気にしなくていいんですよ。それより、あなたは仕事を頑張りすぎなんだから、ここに来たときくらい肩の力を抜いてちょうだい」
 
 女性の柔らかく温かい笑顔に、大吾さんもまた温和な笑顔を見せる。そんなふたりを微笑ましく見ていると、女性から不意に視線を向けられてどぎまぎしてしまう。

「は、初めまして。天海八重と申します」
 
 椅子からすっくと立ちあがり、落ち着きのないまま会釈する。

「八重。そんな緊張しなくていい、早く座って」
 
 大吾さんの穏やかな声に顔を上げ、恥ずかしいのを隠すように俯き加減で椅子に座った。

「八重さん、初めまして。私は三島和子(みしまかずこ)。主人とふたりで、この店を切り盛りしてるのよ。それにしても今日はビックリしたわ。大吾さんがここに女性を連れてくるなんて初めてなんですもの。あ、少し待っていてね」


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