契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 偽装結婚なのだから、許すも許さないもない。そんなことわかっていたはずなのに、こうやって口に出してみると少なからずショックを受けている自分に気づいてしまう。力が抜けたようにゆっくりとかかとを下ろし、大吾さんから離れた。

 ショックなんて受ける必要ないじゃないでしょ──。

 そう自分に言い聞かせてみても、チクチクする胸の痛みは消えてはくれない。大吾さんが来てくれたから大丈夫と思っていた余裕にも似た気持ちが、見る見るうちに萎んでいく。

「八重~、いつまで待たせるつもり? 誰が来たの?」
 
 待たされてしびれを切らしたのか、奥の部屋から母が顔を出す。私の隣に立つ大吾さんを見つけた母は、きょとんと目を丸くしている。

「や、八重。そちらはもしかして……」
 
 その後に続く言葉は聞かなくてもわかる。どうせすぐにわかることだからと、母向かって小さく頷いた。それを見て、母の顔が一瞬でパッと華やぐ。

「お母さん、部屋に戻って。お父さんも一緒のところで彼を紹介するから」
 
 母を奥の部屋に戻し、くるっと大吾さんに向き直る。両親に男性を紹介するのは初めてのことで、偽装だとわかっていても身体が震えてしまう。



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