契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
「心配するな。八重、お前には俺がいる。それに騙そうなんて思うな、いつもの八重でいい。肩の力を抜いてリラックスだ、いいな?」
 
 私の震えに気づいた大吾さんが、労わるように私の肩を抱く。優しくポンポンと撫でられると、それだけで震えが治まっていく。

 もしかして、大吾さんの手は魔法の手? なんて年甲斐もなく、そんな可愛いらしいことを考えたりなんかして。
 
 自分が可笑しくてふっと鼻で笑うと、背の高い大吾さんが少し屈んで私の顔を覗き込んだ。眉目秀麗な顔がぐっと近くなり、心臓がバクバクと音を立てる。

「な、なんですか、いきなり」
「笑うから、余裕なのかと思って?」
「余裕なんてありません。さっきからいろいろと、いっぱいいっぱいです」
 
 それに引き換え大吾さんは突然現れたときからずっと余裕綽々、涼しげな顔をしている。これは、経験の差なのだろうか。
 
 大吾さんがどんな恋愛をしてきたのかは知らないけれど、男性が三十三年も生きてこれば、酸いも甘いも嚙み分けてきたはずだ。その中でひとりくらいは、結婚したいと思った女性がいたっておかしくない。
 
 そう思うと勝手にため息が漏れ、また胸がちくっと痛む。

 ホント、さっきから一体なんなのよ……。
 
 ドキドキしたりバクバクしたり、挙句の果てにはチクチク痛んだりして。今日の私の胸は、いつにも増して忙しい。




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