愛は知っていた【完】
声を張り上げた私の瞳を見据えていたお兄ちゃんの双眼が、大きく見開かれゆらゆらと揺れている。
帰る前に見た、彼女さんと手を繋いでいる笑顔のお兄ちゃんとは打って変わって、驚愕や絶望に支配された顔。
お兄ちゃんのこんな表情、初めて見たかもしれない。

胸を締め付けられる思いになりながらも私はさらさら謝るつもりはなかった。
だって事実だから。
彼女がいるお兄ちゃんにとって、妹の私が他の男とどこで何してようが関係ない。
いつまでもお兄ちゃんに依存してられない。
私もいい加減他の男性に目移りしなきゃ、迷惑被るのはお兄ちゃんの方なんだよ?
それを言葉にできたらどんなに気が楽になれたものか。

けど今更それを伝えること自体がお兄ちゃんを苦悩させる主因になりかねない。
だったらこうやって突き放した方がマシだ。
せっかくお兄ちゃんは彼女を作って私という束縛から解放されようとしているのに、私がお兄ちゃんから離れなかったら、それこそお兄ちゃんの未来を蔑ろにしてしまう。
これでも私だって考えてるんだ。
濁った青春の中で涙を流して、たくさん煩悶を重ねて、大好きなお兄ちゃんのお荷物にならないように一生懸命のつもりなんだ。
だから私は放心状態のお兄ちゃんを無視して自室に足を進めた。

これで、良いんだよね。
そう確信した、はずなのに。
< 17 / 79 >

この作品をシェア

pagetop