愛は知っていた【完】
そんなことを考えながら口を噤んでいた俺の耳に、不意に朱里の「彼女……」という声が届く。
俺がとぼけると朱里は躊躇いがちに訪ねてきた。


「彼女、できた?向こうで、さ。報告無かったけど」
「あー、まぁ……」


パッとしない肯定をして見せた俺に朱里は少しだけ驚いているようだった。
そういえばあれから連絡は定期的に取っていたのだが、そういう色恋沙汰な話は一切してなかったな。
俺の方はあえて避けていたのだが、朱里からも話題を振ってこなかったことには一体どんな意味があったのだろうか。
漠然と予想をしてみようと思った矢先、朱里が口を開いた。


「私もこの前彼氏できたよ」
「え」
「もう別れちゃったけど」


しかも相手は中学校時代の俺の後輩である滝本で、秋の学校祭のあと告白されて付き合ったけれど、朱里が思い描いていたものと違ったらしく、ものの一ヶ月で別れてしまったとか。
それを聞いてホッとしてしまった俺は、自分もつい数日前に彼女と別れたことを告げた。
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