愛は知っていた【完】
そしたら互いに緊張の糸が解けたみたいに笑いが込み上げてきて、二人を取り巻いていた雰囲気が一気に柔らかなものになった。
密かにずっと気になっていたことが本人の口から明白にされて、しかも似たような境遇に立たされてまた独り身になって、互いの共通点を見出せたことに喜びを感じていたのかもしれない。

相手は適当にルックスが良くて接しやすい人だし、なんて軽はずみで付き合って、だけど段々なんでこの人と付き合っているのかという疑問に首を傾げるようになって、友達が「彼女欲しい」とか「彼氏と別れちゃった」とか嘆いていたりするのを冷めた目で見るようになっていて。
俺達は互いに上げる意見に共感しながら足を進めた。

そうだ、俺は周囲とは求めているものが根本的に違う。
報われないと分かっている愛を掴もうと悪あがきをしているだけなんだ。
朱里はどうなのだろう?
今の会話から俺と近い心境ではあるようだが、まさかまだ俺への想いを断ち切れていなかったりするのか。
などと淡い期待を寄せる俺はどこまでも愚かな人間だ。
< 45 / 79 >

この作品をシェア

pagetop