君のブレスが切れるまで
「ごめんなさいね。危うく、多く払わせてしまうところだった」
「あ、いえ……」


 知らない人から、マニュアル以外の話をかけられるのは苦手だ。
 音楽が鳴り止み、鐘の鳴る音が聞こえ始める。恐らく、九時になったのだろう。


「あ、先にレジ通さないとね……割引してー……一万円になります」


 一万円なら足りる。
 いつもの運の悪さが炸裂していたなら、傘を諦めるしかなかった。内心ホッとすると私は一万円札を店員さんに手渡し、レシートを受け取る。


「誰かへのプレゼント?」
「は、はい……そうです」


 店員さんはやっぱり、といった具合で微笑んでみせてくれる。


「ずっと悩んでいたもんね、せっかくだしギフトラッピングにする?」
「いえ、そんな……もう閉店時間なのに悪いです」


 早く帰してほしいという気持ちがある。だけど、それ以上にこの人は私のことを見ていたんだと感じた。
 前言撤回、人は思ったより他人を見ているかもしれない。


「大切な人へのプレゼントなんでしょう? 遠慮することはないけど、必要ないなら――」
「あ……あの!」
「……?」


 不思議に思ったわけじゃない。けど、なんとなく聞いてしまった。


「私って、そんなにわかりやすい……ですか?」


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