純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
「睡!?」
驚きの声を上げて駆け寄ると、一瞬目を丸くした睡はさらに眉を下げ、弱々しく「時雨さん……」と呼んだ。片方の下駄が脱げているのもわかり、膝をついた時雨は心配そうに睡の肩に手を置く。
「どうした、転んだのか? ケガは?」
「早く帰ろうと急いでいたら、鼻緒が切れて。ケガはしてないんですけど……」
睡はおもむろに転がっていた箱に手を伸ばす。
「ケーキがぐちゃぐちゃになってしまいました……時雨さんのために作ったのに~」
子供のように声を上げ、瞳に溜まっていた涙がぽろぽろと溢れ出す彼女を見て、時雨は呆気に取られる。箱から飛び出しそうになっているのは、形が崩れたバターケーキだった。
台紙に乗ったそれをゆっくり箱の中に戻しながら、落胆しきっている彼女は涙交じりに話す。
「菊子さんから、『時雨様はああ見えて甘党なんですよ』と聞いたので、仕事の合間に有美さんたちから作り方を教えてもらっていたんです。何度も失敗して、今回初めて上手にできたんです。初めて、時雨さんを喜ばせてあげられるかもしれなかったのに……」
嗚咽を漏らす睡を、時雨は目を見開いて見つめる。