純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
「……ありがとう、四片」
つらいに違いないのに自分以外の幸せを喜べる彼女が健気すぎて、睡は泣きそうになった。
四片は涙ぐむ睡の肩を抱き、思い出したように「あ、ごめん。もう睡蓮じゃなくて睡だったっけ」と、あっけらかんと言った。そして目線を宙に浮かべ、唇で弧を描く。
「私もそっちに行けたら、本当の名前を教えるね」
「うん……約束だよ」
肩に回された温かい手にもじんとしながら、睡は親友に幸せな未来が訪れることを切に願った。
しばしの別れを告げ、ふたりは茶屋をあとにした。四片は藤浪楼へ、睡は大門へと向かう。
時雨と約束していた時間まで少し余裕がある。四片の恋心を知った睡はそれについてばかり考えながら、複雑な心境でゆっくりと歩いた。
詰所に寄ってすでに顔馴染みとなった門番に通行証を見せ、再び大門の手前に出たとき、よく見知った人物が歩いているのに気づく。
「兼聡さん!?」
思わず呼び止めると、彼は驚きと嬉しさを露わにして「睡さん!」と応えた。睡も気を許した笑顔で駆け寄る。