純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「また四片に会いに来ちゃいました。兼聡さんはお仕事?」
「はい。年末からずっと忙しくて、なかなかヱモリにも行けなかったから会えて嬉しいです」


 兼聡は職人道具が入った入れ物を掲げ、表情をほころばせた。

 年が変わってから会っていなかったふたりは、遅い新年の挨拶を交わしてしばしたわいない会話をする。そうしているうち、兼聡がなにかに気づいて「あ」と声を漏らした。


「簪が取れそうですよ。直しますね」
「わ、本当ですか? ごめんなさい」


 触ってみると、確かに落ちそうになっている。兼聡の言葉に甘えることにして、道の端に寄って彼に背を向けた。

 こうするのは久しぶりで、睡はなんとも言えない心地よさを感じる。兼聡の手つきはとても優しく、彼自身の人柄が表れているようで好きだ。

 しかし、簪を挿し直すなんて容易いことなのに、彼の手はずっと髪に触れ続けている。顔周りに垂れた髪を指に絡めたり、頭を撫でたりと、まるで愛でるように。


「……あなたの髪に触れると、駄目だな。気持ちを抑えられなくなる」


 ふいに余裕のなさそうな声が聞こえてきて、睡はどういう意味だろうかと小首を傾げて振り返る。
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