純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「すまない、あまりにも汚い手が妻に触れようとしたのでつい」


 冷徹な表情を少しも変えず、男たちの前に立ちはだかる時雨に、睡たちだけでなく周りの人間も固唾を呑んで見守る。あっという間の出来事で、詰所から出てきた門番たちも状況を把握するので精一杯のようだ。

 時雨はやや乱れたスーツを直し、彼らを軽蔑の眼差しで見下ろす。


「女性と遊びたいのなら見世に行け。ただし、それ相応の振る舞いを忘れないことだ。金だけでなく女性への敬意も払えないのなら、吉原の敷居を跨ぐ資格はない。下衆な精神はそこのどぶに捨てて出直せ」


 抑揚を抑えているものの怒りが滲んでいる声が、尻もちをついた男たちに降り注ぐ。睡は時雨が吐いた最後の台詞にはっとした。


『下衆な心はお歯黒どぶに捨ててきな』


 以前、まだ幼い禿に手を出そうとしてきた無礼な客に対して、玉響が放ったその台詞とよく似ていたからだ。あのときの玉響の毅然とした態度はとても格好よく、深く尊敬した。

 今また似たようなやり取りが行われて睡は胸を熱くするが、時雨の怒りは冷めやらないらしい。彼は男ふたりの前にしゃがみ、威圧感に満ちた鋭い視線を突き刺す。
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