純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 数日後、再び岩政がやってきて、睡蓮と共に上座に座って初めて会話をした。彼の笑顔は相変わらず、話し方もゆったりとしていて、睡蓮は不思議な心地よさを感じた。

 自分の知らないことを穏やかな口調でたくさん聞かせてくれた彼は、まるで父親のようだった。決して本物の父ではなく、あくまで理想の。〝こうであってほしかった〟という睡蓮の父親像を具現化した人であるから、心地よさを感じたのだろう。

 次に会うときは、彼の名前を呼び、自分の布団の中へと招かなければならない。しかし、彼から下心をほとんど感じないせいもあってか、情事の想像はまったくできなかった。

 そのときをただ待つしかない彼女は、今日も訪れる客のために髪を結っている。初会となる男は毎日訪れるが、花魁となって日が浅いため、二度やってきたのは今のところ岩政だけである。

 客以外で睡蓮の部屋に上がった男性は、髪結い師の兼聡(かねさと)だけだ。

 兼聡の父が腕を怪我した半年ほど前から、二十一歳になる彼がここへ来ている。玉響の髪を結っていたのも兼聡で、その腕前は玄人と変わらないと彼女も認めていた。

 童顔で女子のように可愛らしい顔立ちの彼は、それとは正反対の骨張った男らしい手で蝶の羽のように髪を立てて固定していく。
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