純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「睡蓮さんの髪はさらさらしていて手触りがいいですね。結ってしまうのがもったいない」


 心なしか残念そうにする兼聡を、睡蓮は鏡越しに見てあははと笑い、「ありがとう」と礼を言った。

 気を許した、年相応の無垢な笑顔。客には滅多に見せないそれに、兼聡の心臓はどきりと音を立てる。

 ……こんなに純情さを感じるこの子が、本当に花魁になってしまったのか。

 信じられない、というよりも、信じたくない気持ちが押し寄せる。すでに貫禄が漂っていた玉響とは違い、睡蓮は未熟な果実のよう。彼女を前にして、絹糸のような長い髪に触れると、毎度もどかしい思いで一杯になる。

 手元に集中するふりをして、鏡越しの睡蓮から目を逸らしたときだ。部屋の襖がすぱんと勢いよく開き、藤浪の女将が現れた。狐のようなその顔は、いつになく興奮気味に見える。


「睡蓮、今日の殿方はものすごい男前だよ! あんなに若くて器量よしな人、これまで来たことないわ。こちらもおゆかり様になってくれたらいいわね」


 腕を組み、得意げに口角を上げる彼女は、ひとりうんうんと頷いている。どうやら、まだ見世が開く前だというのに、睡蓮を指名している者がいるらしい。
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