純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
ふたりが恋仲だったと兼聡が知っていたとすれば、睡を引き止めようとしたのも納得できる気がした。時雨が今も玉響を想っている可能性も否定できないから。
肺の酸素が抜かれていくような苦しさを感じ始めたとき、四片が「あっ」と声を上げた。彼女の視線の先を追うと、少し離れたところで成す術なく呆然と廓を眺める女将の姿に気づく。
「女将も無事だったんだね、よかった。四片の元気な姿、見せてあげなよ」
「そうしようかな。睡はちゃんと医者に診てもらって」
四片に気遣われ、睡は曖昧に微笑んだ。腰を上げた彼女は、近くの医者に「足を怪我している人がいるからお願いします」と伝えて、女将のもとへ歩いていく。
四片に感謝しつつも、睡はここに留まるつもりはなかった。玉響が死ぬときまで大切にしていた簪を、早く本人のもとへ返しに行きたい。
痛む右足をかばいながらなんとか立ち上がり、四片たちとは反対の方向へ歩きだす。
「女将! よかった、無事で~」
「よかったのかどうなのかねぇ、全部燃えちまって……。まあ、生きてさえいりゃなんとでもなるか」
無事を喜び合うふたりの声を背に、睡は人だかりの中へと紛れていった。