純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
そうして辺りが闇に呑まれる頃、ようやく浄閑寺の供養塔の前にたどり着いた。当然ながら人はひとりもおらず、静寂に包まれている。
睡は力が抜けたようにその場に座り込んだ。足は限界で、もう立ち上がれそうにない。
昼間供えたばかりの花に囲まれた供養塔をぼんやり見上げ、そこに眠る姉女郎にぽつりぽつりと話しかける。
「玉響姉さん……好きな人からもらったっていう簪、届けに来たよ」
手のひらを開き、片羽の蝶に視線を落とす。
「時雨さんも、お揃いのネクタイピンをずっと大切にしてる。姉さんたちには、それだけ強い絆があったっていうことだよね」
正月にネクタイピンについて聞いたとき、彼は『きっと一生つけ続ける』と言っていた。相思相愛だった証拠ではないだろうか。
時雨が遊廓を嫌っていたのは、玉響が閉じ込められていたから。睡が今の幸せは手放しでは喜べないと話したとき、『周りには恵まれない人もいる』と言って切なげな顔をしたのは、玉響を想っていたから。
そうやって、すべてふたりが繋がっていたのだとすれば納得できる。