純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 わからないのは、玉響を身請けしてあげられたはずなのになぜそうしなかったのか。なぜ、彼女が亡くなってから妹女郎である自分を身請けしたのか。

 時雨からの愛は、本当に自分だけに向けられているのか。


「彼の隣にいるべきなのは、姉さんだったんじゃないかな……」


 白い息と共にか細い声がこぼれ、込み上げるもので鼻の奥が痛くなった。時雨に真実を問い質してそれを打ち明けられたとき、どんな未来が待っているのかも見えなくてとても怖い。


(でも……どんな運命も受けて立たなきゃ)


 ぐっと手を握り、自分を奮い立たせていたそのとき。


「睡!」


 足音と名前を呼ぶ声が聞こえ、睡の肩がびくっと跳ねた。驚いて振り向くと、時雨が必死な表情で駆け寄ってくる。


「時雨さん、なんで……」


 呆然として呟いた直後、すぐそばにやってきた彼が、服が汚れるのも構わず膝をついて睡を抱き寄せる。


「よかった……やっぱりここにいたんだな。足の怪我は──」


 安堵と心配が交ざった声が耳元で紡がれ、はっとした睡は時雨の胸を押し返した。
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