純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 間夫というのは、花魁が特別気に入った本命の男のこと。

 廓には昔から、恋に落ちた男と無謀な足抜けをしようとしたり、死ぬことで自由を得ようとしたりする遊女は数多くいる。睡蓮には、女将が玉響のことを言っているように思えて、胸が苦しくなった。

 襖のほうへと目線を向けると、女将は気持ちを切り替えるようにさっぱりとした口調で告げる。


「そういうことだから兼聡さん、手早く綺麗に仕上げておくんなんし」
「わかりました」


 頭を下げて答えた兼聡は、襖が閉まるのを確認してから睡蓮に向き直り、再び和やかな雰囲気で話しだす。


「女将は相変わらず色男が好きなんですね」
「ええ。だから兼聡さんも贔屓にしているんだと思いますよ」


 無邪気な笑顔で言われ、簪を挿していた手が一瞬止まる。はっとした睡蓮は、「あっ、もちろん髪結いの技術が優れているからこそですけれど!」と慌てて付け足した。

 兼聡はぷっと噴き出す。


「ありがとうございます。睡蓮さんにそう思われているのは嬉しいな」


 若干の照れを交じらせて破顔したものの、その表情にはすぐに影が差す。
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