純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「やめて、姉さんの前で」


 力なく俯く睡を、時雨は戸惑いに満ちた瞳で見つめる。睡はゆっくり目線を上げ、苦しげな表情で重い口を開く。


「玉響姉さんは、時雨さんを愛していたんでしょう」


 時雨の瞳が大きく見開かれた。


「……え?」
「今日、姉さんの間夫だった……いえ、間夫だと思っていた人から本当のことを聞いたんです。姉さんは、この簪を贈った人を密かに愛していたと」


 再び手のひらを開いて簪を見せると、彼はなんの声も出せなくなったように押し黙った。

 しばしの沈黙のあと、信じられないと言いたげにわずかに首を振る。


「まさか……そんな」
「違うって言うんですか? 時雨さんだって、揃いのネクタイピンをずっと大切にしているじゃありませんか!」


 堪えきれずに放たれる睡の声が、寒凪(かんなぎ)の夜の空気を震わせる。時雨を責めたいわけではないのに。


「どうして、私と結婚したの? あなたの心の中には、今も本当に愛する人が──」
「違う!」


 気持ちを吐き出していた最中に強い声が響き、睡は口をつぐんだ。

 時雨の手に両肩をしっかりと掴まれ、涙を溜めた瞳には彼の真剣な顔が映る。
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