純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
──名前を呼ばれた気がして目を開けると、滝のように藤色の花が垂れ下がる立派な藤棚が飛び込んできた。見慣れたそこは、吉原の中にある庭園だ。
こんなところで昼寝をしてしまったんだっけ?と、ぼんやりしている睡の背後に誰かが近づく。
「睡蓮、なんで謝るの」
懐かしい声が聞こえて振り向いた睡は、目を大きく見開いた。長い髪を下ろした、美しい姉女郎が微笑んで立っている。
毎日会っているはずなのに、なぜこんなに泣きたくなるほど心が震えるのだろう。妙な違和感を覚えたのもつかの間、彼女はいたずらっぽく口角を上げる。
「時雨兄さんは素敵な人だもの。好きになったのは私とあんただけじゃないわよ、きっと」
茶化すように言われ、心臓がどくんと揺れ動いた。
ああ、ここは夢の中なのだ。そう理解して呆然とする睡の頬に、玉響は白く細い手を伸ばす。
「私は自分に正直に生きた。睡蓮もそれでいいんだよ。なにも悪くない」
彼女はとても綺麗な笑顔を浮かべ、いつかと同じように「幸せにおなり」と温かい声を紡いだ。