純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
「……姉さん」
瞳に涙を溜めて玉響の手に触れようとした瞬間、目の前を一匹の揚羽蝶が横切り、まばたきをした一瞬で彼女の姿は消えていた。
蝶はひらひらと空に舞っていく。その儚さにまたすすり泣くも、胸の痛みは心なしか和らいでいた。
次に目を開けたとき、視界に映るのは藤の花ではなく愛しい人の顔だった。目尻からこめかみにかけて濡れているのがわかる。
心配そうな表情で「睡」と呼ぶ彼をぼんやり見つめ、握られていた手に少し力を込める。
「時雨、さん……」
「大丈夫か? ここは病院だ。足の骨にヒビが入っていて、しばらくは入院になるらしい」
時雨は心配そうな表情でゆっくり説明しながら、指でそっと涙を拭う。睡は足が固定されている感覚を覚えて小さく頷いた。
「迷惑をかけてごめんなさい。今、姉さんの夢を……」
脈絡なく言葉を口にしている最中、今日一日の出来事を鮮明に思い出してはっとする。
「あの簪は?」
「供養塔に供えておいたよ」
時雨の返答に、睡はほっと胸を撫で下ろし「ありがとうございます」と礼を言った。そして、今しがた見た夢に思いを馳せる。