純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
貧しい家庭で育ち、母親は亡くなり、義理の父親に虐待めいた扱いを受けていた。ぽつりぽつりと語られるそれらを一部始終聞き、整った顔が忌々しそうに歪む。
「まさかあの峯村社長がね……。俺も社長になって関わる者たちの人間性はよく観察して見識を備えてきたつもりだったが、見抜けなかったとは屈辱的だ」
小さく舌打ちする九重と、睡も同じような顔をして暗鬱とした声を紡ぐ。
「二度とあの人には会いたくありません。どうしてもあの人のもとへ行けと言うなら、また逃げ出して吉原に戻ります」
九重は再び面倒そうなため息をつき、気だるげに長い脚を組む。
「それでは私が女将に恨まれる」
「では、ここで舌を噛み切って死にます」
「うちをいわくつき物件にしないでもらえるか」
睡は本気で言っているというのに飄々とした調子で返されるので、むっとしかめっ面をした。この男は慈悲深いのか、それとも無情なのかよくわからない。
すると、九重はおもむろに腰を上げて睡のほうに歩み寄る。
「そう焦るな。まず確かめておきたいことがある」
そう言って手を差し出され、睡は怪訝そうにしながらもおずおずと手を重ねて立ち上がった。