純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
時雨は淡々と語るが、両親が亡くなっていると知り気の毒な気持ちになる。「そうだったんですか……」と呟いて目線を落とす睡に、彼は柔らかな声を投げかける。
「俺も君と似たようなもの、天涯孤独だ」
顔を上げた睡の目に、わずかに憂いを帯びた笑みをこぼす時雨が映った。決していいことではないのに、身分がまったく違う自分たちにも似通った部分があるとわかると、不思議と心が温まる。
食事する手を止めてしんみりとしていると、時雨は思い出したように菊子のほうを振り向く。
「ああ、すまない。菊子さんも家族同然だった」
「時雨様!」
菊子は感涙するように顔をくしゃっとさせ、両手を合わせてついに拝みだしてしまった。
睡は思わず噴き出し、笑って明るい気分を取り戻す。落ち着いたまま食事を進める時雨と、顔をほころばせる睡を、菊子は交互に見て穏やかな調子で言う。
「大丈夫ですよ。おふたりにも、いつか新しい家族ができますから」
──新しい家族。それは考えたこともない発想だった。
(誰かと結婚して、子供を産むなんていうことが、こんな私にもできるのかな)