純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
今はまだ先が見えない状況だが、菊子の言葉や微笑みからは、そんな幸せな未来が本当に作れそうに思えるくらいの不思議な力を感じる。
小さな希望を抱かせてくれた彼女に感謝しつつ、睡も笑みを返して食事を再開した。
あと一時間ほどで日づけが変わる頃、睡はひとり昼間時雨と話をしたサンルームにいた。一度はベッドにもぐり込んだがなかなか寝つけず、部屋を抜け出してきたのである。
菊子は夕食の片づけを終えると自宅に帰ってしまい、今この家にいるのはふたりだけだ。
面積の広いガラスの窓からは、濃紺の空にくっきりと浮かぶ満月がよく見える。夜でも明るい遊郭ではこれほど美しく見えなかった。灯りをつけなくてもこんなに明るいものだったなと、まだ田舎にいた幼い頃に感じたことを思い出した。
最中のような月から、手に持った細長い煙管へと視線を移す。これは玉響が使っていたもので、彼女の形見のひとつである。
宴会の最中に、玉響は自らの唇で吸って火をつけた煙管を馴染みの客に渡していた。彼女の部屋でもよくひとりで一服していたが、その姿は色香が溢れるものだった。