純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 見よう見まねで煙管を人差し指の上に乗せ、親指と中指で挟んで持つ。それを口の高さに持っていったとき、足音と人の気配が近づいてくるのに気づいて振り返った。

 麻の葉柄の浴衣を着た時雨が、ゆっくりと歩み寄る。端整な顔に前髪が下ろされていて、昼間とはまた違った雰囲気に睡の心臓がどきりと鳴った。

 先ほど二十七歳だと聞いたが、いつからその匂い立つような色気を醸し出しているのかと感服してしまう。

 彼は煙管に目をやり、眉をひそめる。


「未成年がなにをやっている」
「本気で吸うつもりはありませんよ。眠れなかったので、なんとなくこうしていました」


 学校の教師のごとく注意する彼に、睡は苦笑して肩をすくめた。


「この煙管、姉女郎が使っていたものなんです。気分を落ち着かせるために吸うのだと言っていたので、思い出して」
「まあ落ち着かないよな、他人の家では。でも、これは今の君には似合わない」


 遠慮のない物言いはどこか清々しく、睡はむっとするよりも確かにそうだと納得して笑いをこぼした。

 時雨はおもむろに椅子に腰を下ろす。もしかして、眠れない自分に付き合ってくれるのだろうか。

 きっとこれも彼の優しさだろうと受け取り、心の中で感謝しつつ睡も昼間と同じ椅子に座った。
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