純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
そういえば、遊郭を出るときに時雨は『花魁は苦手だ』と言っていた。その理由を知りたくて、睡はなにげなく問いかけてみる。
「時雨さんは、どうして花魁が苦手なんですか?」
「ああ……語弊があったな。花魁に偏見はないが、遊郭そのものが嫌いなんだ。女性の花盛りの時期を奪い商品同然に扱って、決まりを守らなければ酷い折檻をされるんだろう? そんな地獄のような場所、いっそ無くなればいいのにと思うよ」
ほんの数秒月が雲に隠れ、冷たい声色で吐き捨てる時雨の表情をさらに暗くさせた。
改めて吉原がどんな場所かを言葉にされると、確かに女性にとっては地獄だ。藤浪楼は遊女思いの女将のおかげで待遇はいいほうであったが、もっと安い見世では酷いものだと話に聞く。
客は当然喜んでやって来るので、時雨のように思う男性もいるのだと、睡は新鮮な気持ちになった。そして、花魁自体が嫌いなわけではないとわかって、なぜだか少し安心している。
「あなたのように思慮深い方が増えれば、きっと吉原も変わるんでしょうね」
憂いを帯びた笑みを浮かべる睡を見て、時雨の表情もいくらか柔らかくなっていった。