純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
しばしの間、沈黙が流れる。不思議と心地悪さは感じず、ふたりでただ夜空を見上げていた。
酒を飲む者の上機嫌な声も、舞いの音楽や女の嬌声も聞こえない。こんなに穏やかな夜を過ごすのはいつぶりだろうか。
「……ここは静かですね」
ぽつりと呟いた睡に、時雨はいたずらっぽい流し目を送る。
「廓では遊女たちのよがる声が聞こえてきたか」
「それはもう毎晩」
恥ずかしがらずにおどけてみせると、時雨も呆れたように笑った。
本当に昨日までとは違いすぎて、こちらのほうが断然いい環境なのに落ち着かない。
「静かだし、ひとりだし、ベッドは初めてなので寝ている間に落ちてしまいそうで……」
「それで眠れないって?」
子供みたいでからかわれそうだと思うも、正直に頷く。その予想通り、時雨は「子供か」と笑い交じりに言い、おもむろに腰を上げた。
睡のもとへ近づいてきた彼は、彼女が持つ煙管を〝渡せ〟と言うように手で合図する。睡は小首を傾げつつ、とりあえず先ほどと同様の手つきで持って差し出した。
その姿を見下ろし、時雨はいたずらっぽく口角を上げる。
「まるで張見世の遊女だな」