純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
明治の頃までは、張見世と呼ばれる遊郭の店先の格子の中で、遊女たちがずらりと並んで客を待っていた。吉原をぶらつく男の中でも好感の持てる者に向かって、自分で吸っていた煙管を〝お吸いなんし〟と格子越しに差し出し、男を誘っていたのだ。
それを再現するように煙管を差し出させて、からかっているのだろうか。ただそれだけならやはり意地悪だと、睡は仏頂面になった。
しかし次の瞬間、時雨の手が煙管へと伸ばされる。
「今夜だけ、睡蓮に戻れ」
「えっ?」
すぐには意味がわからず、睡はきょとんとした。
遊女の誘いに乗った客のごとく煙管を受け取り、それを片手で持つ時雨が、妙に妖艶な風貌で意味ありげに微笑む。
「ひと晩共にしてやる。ひとりでは眠れないんだろう?」
その言葉で、今の一連のやり取りは遊女と客になったつもりで行ったのだと理解し、睡の顔はみるみる熱くなった。
(一緒にいてくれるのはありがたいけれど、こんなに回りくどいことをしなくていいのに! 絶対面白がっているんだわ)
顔を赤らめて心の中で文句を言っているうちに、手を引かれて二階へと連れられていく。しかし向かうのは客室ではなく、時雨の部屋だ。