純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「……え?」


 意外なひとことに、時雨は眉根を寄せた。

 あれほど嫌がっていたのに、急にどうしたのか。むしろ、今は時雨のほうが行かせたくない気持ちが大きい。


「昨日も今日も、ずっと考えていたんです。会いたくないと拒否ばかりしていたけど、私のわがままで時雨さんの事業に影響を出すわけにはいかないって」


 テーブルに並ぶ料理を見るともなしに眺めて語る睡を、時雨はじっと見つめる。


「菊子さんに聞きました。時雨さんは、ものすごい重圧の中で毎日会社と社員のことを考えているのだと。父との取引も、とても重要なものなんでしょう。もし私のせいでうまくいかなくなったら、申し訳が立ちません」
「……まあ、共同開発の件はなんとしても実行させるが」
「ふふ、さすがは孤高の嗣子様」


 相変わらず強気な時雨に、睡は表情をほころばせた。嫌味も憂いもなく、自然な笑みだ。


「だから、私のことは気にしないでください。もうあの頃みたいな子供ではありませんから、父の言いなりにはならないし、いざというときはまた逃げ出します」
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