純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 ぐっと拳を作り、茶化して笑う彼女は、決意が固まっているように感じる。しかし時雨の脳裏を過ぎるのは、昨日の寂しげな笑み。あれが彼女の本心に違いない。

 一度戻ったら逃げ出すのは至難の業だと、彼女自身も重々わかっているはず。そんな場所、廓と同じではないか。

 それなのに、自分の身よりも会社への影響を案じている健気な睡に、時雨は胸を摘ままれるような感覚を覚えた。


(……この子は、絶対に渡さない)


 ますます強くなるその思いを抱き、箸を置いて口を開く。


「俺の意地が悪いのは、菊子さんから聞かずともわかっているだろ? よだれを垂らす醜い(けだもの)に、易々と餌を渡すような男じゃないんだよ」


 時雨の言葉に、睡は目を見張る。


「君が幸せにならなければ、俺が女将に恨まれると言っただろう」
「でも──!」
「睡」


 落ち着いた声で初めてちゃんと名前を呼ぶと、反論しようとした彼女は口をつぐんだ。
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