この恋が手遅れになる前に
「やっぱ酔ってるね? こんなことするような子じゃないでしょ?」
「普段は大人しく見せてるんです。本当は余裕なんてありませんよ」
耳元で囁かれて体が小さく震える。
困った。穏やかで好青年な本田くんに抱きしめられる日が来るとは。
「古川さん……なんで送ってくれたんですか?」
「だって本田くんが無理って言うから……」
「本当にいいんですね?」
この子は今更何を言っているのだろう。自分から私に付き添ってと言ったくせに。
「具合が悪そうなのに放っておけないでしょ?」
「だから酔ってません。このままだとまずいですよ」
「え? 気持ち悪い? 吐く?」
今この状態で吐かれたら悲惨なんですが。
「ふっ」
耳元で本田くんが笑うから吐息が当たりくすぐったい。
「僕ってここまで古川さんの眼中になかったんですね」
「え?」
エレベーターのドアが開くと本田くんは体を離したけれど、腕だけは私の腰に回す。そのまま軽く腰を押されると本田くんと共にエレベーターの外に出てしまった。
「じゃあ私は帰るね」
鍵を鍵穴に差し込んだのを見届けて声をかけると腰の腕を引きはがした。すると本田くんは口に手を当てる。
「古川さん、無理かも」
「無理って?」
本田くんはドアにもたれかかった。吐きそうなのだろうか。
「…………」
返事をしないということは本当に具合が悪いのだろう。このまま置いていくのは悪い気がして、本田くんの体を支えるために手を肩に当てた。
部屋のドアを開けて玄関に一緒に入った。
真っ暗な玄関の明かりをつけようと壁に手を当ててスイッチを探すと、急に体を押されて背中が閉まったばかりのドアに押し付けられた。