この恋が手遅れになる前に
「本田くん!」
思わず怒りを含んだ声になる。
「もう! いい加減にしなさい! この酔っ払い!」
真っ暗な中で見えない本田くんに向かって怒鳴る。動く気配がないからまだ目の前にいるはずだ。
突然左頬に温かいものが触れた。驚いて自分の手を当てると、どうやら本田くんの手が私の頬に触れているようだ。
「本田くん?」
「古川さん、俺酔ってないって言いましたよ」
「え?」
本田くんが自分のことを「僕」から「俺」と表現したことに違和感を覚えた。
何も見えないけれど本田くんは確かに目の前にいる。
「本当に今意識がはっきりしてます。だからこれは酔った勢いとかじゃないですから」
何が言いたいの? と聞こうとすると、その口は突然柔らかいもので塞がれた。
「んー!」
キスされていると気づき、驚いて抵抗しようと本田くんの肩や顎を押した。一瞬離れた唇を再び捕らえるように強く押しつけられる。下唇を軽く噛まれて鳥肌が立つ。
「はっ……」
不覚にも声が漏れた。本田くんは満足したのか唇をやっと離した。
「どういうつもり!?」
目の前の影に怒鳴る。
「こんなこと酔ってるからって許さないよ!?」
「だから酔ってないんですって。これしか古川さんを手に入れる方法が思いつかなかったんです」
「はい?」
だんだん暗闇に目が慣れてきた。本田くんの顔が焦りと不安で歪んでいるのがぼんやり分かる。
「俺じゃだめですか?」
「え? 何が?」
「古川さんの恋人は、俺じゃだめですか?」
増々混乱する。訳の分からないことを言う本田くんに戸惑う。
「意味が分からないんだけど……」
「朝加部長よりも古川さんを大事にできます」