この恋が手遅れになる前に
私は返事をしないで壁を向いて本田くんに背中を向けている。すると本田くんがベッドに入ってきて背後から私を抱きしめた。
「本田くん……あんまりくっつかないで……」
「やっぱり起きてるじゃないですか」
私が逃げると本田くんが体を寄せてくるからどんどん壁に追いやられる。
「涼平って呼んでくれたら離れます。今夜だけじゃなくてこれからも」
「ずっと? 会社でも?」
「はい」
「無理……急に呼び方が変わったら変に思われるでしょ?」
「じゃあ二人きりの時だけはお願いします」
こんな本田くんを初めて知る。呼び方を変えたり必要以上に近づかれると戸惑ってしまう。
「ほら、下の名前で呼んでみてください」
「……涼平くん」
小さな声で言うと涼平くんは「ふっ」と照れたように笑う。
「呼び捨てにはしてくれませんか?」
「難易度が高い……」
「仕方ないですね、今はそれで我慢します」
涼平くんは体を起こして私の頬にキスすると「おやすみなさい奏美さん」と言って体を離して横になった。
ほっとしたのに、すぐに手を握ってきた。離れないように指を絡めるから文句を言う気も失せる。この状態で寝れるのか不安だったけれど、体が疲れているせいか気がつくと朝だった。
◇◇◇◇◇
「おはようございます古川さん」
数時間前まで体をくっつけていた涼平くんは出社すると何事もなかったかのように爽やかな笑顔を向ける。
「おはよう本田くん……」
隣同士のデスクであることを今更だけど恨んでしまう。
始発が動き出す頃に涼平くんに起こされ、着替えるためにすぐに自宅に戻った。
昨夜のことは夢であればいいのにと思ったけれど、涼平くんとのことは残念ながら夢ではない。
今日の予定は別行動なのが救いだった。